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とにかく濃い!ベトナムのレズビアン映画『White Valentine』はてんこ盛りラブストーリー

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石壁に百合の花咲く』で知ったこちらの映画『White Valentine』。カリフォルニア州(サンノゼ、オレンジ、サンディエゴ)とテキサス州(ガーランド、ヒューストン)のみでの限定公開中です。

AMCというメジャーな映画館チェーンで、ベトナムのレズビアン映画が(映画祭などではなく)一般上映されるという機会はそうそうありません。これはサポートしなければ!ということで、さっそくオレンジのAMCで観てきました。

あらすじ

Khanh Linh(Vương Thu Phương)は、裕福な家庭の息子Tran Hung(Pak Narapat)と婚約中。婚約パーティで、人気DJ Kim(Diệu Huyền)と出会い、一目で惹かれるものを感じる。婚約者の心がDJ Kimに向いていることを知ったHungは様々な方法で二人を妨害しようとするが、二人の気持ちは止められない……さぁどうなる⁈

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感想(以下ネタバレあり!)

うーん、こ、濃いっ!なんでしょうねー。ボリウッド映画というか韓国ドラマというか……普段見慣れていないエンターテイメントのフォーマット(コメディ風味のあるソープオペラ?)に、ついていくだけで必死。いや、面白かったんですよ!面白かったんですけど、amusingというよりはinterestingな体験でした。

内容は、裏切りあり、家族ドラマあり、カムアウトあり、レイプあり、処女喪失あり、スーパーカーあり、ラブシーンあり、殺人あり、精神病院への入院あり、妊娠あり、出産あり、結婚式あり、「えっ!!!」と思うようなどんでん返しもあり(一応書かないでおきます)。音楽も、カメラワークも、とにかくドラマティック。これでもか!というほど視聴者を面白がらせようとしてくれます。最後まで息がつけない感じ……というか見終わった後は、お腹いっぱいでした。

違和感を覚えた描写

映画全般を通じて、以下の様な価値観が前提となっており、それがストーリーの理由つけとなっているんですね。

  • 結婚するまでは処女
  • 金持ちの男と結婚するのが女の幸せ
  • クラブダンサーと結婚なんてできない

ちょっと昭和っぽいというか……もちろん、人によっては共感するかもしれないけど、違和感を覚える人もいるかも。でも、まあこういうのがベトナムでのリアルなのかな?個人的には、思い通りにならない女を暴力によって従わせようとする男たちの姿がダイレクトに描かれる場面があり、これは政治的に正しくないどうこうを通り越して、ちょっと見るのがキツかった。ストーカーっぽい男の姿もコミカルに描かれてはいるんだけど「殺す!」とかさ……普通に怖いんだよね。

さらに、主人公がいちいち煮え切らないのも印象的。どうしたいのか聞かれて「えーっと、うーんと……(もじもじ)」って感じでちっとも返事をしない!あああーんもう!何?ベトナム人ってこんな感じなの?と思ってしまいましたが、実際どうなんですかね?

残念だったのは、重要なシーンが、カットでチラっと見せるだけで終わる点。説明を簡素化しすぎてて「?」ってなった部分がいくつかありました。あと、やたら回想シーンが盛り込まれるのですが、そこもわかりづらいっ!やたらざっくりな編集手法に加えて、英語字幕のタイミングがずれていたり、大切っぽいセリフのところで表示がされなかったり、一瞬で字幕が消えたり……っていうテクニカルな部分も影響していたっぽく、数カ所、置いてけぼりになりました。

よいところ

と、なんだかんだ書きましたが、この映画にはよいところもたくさんあります。

まず、役者陣が魅力的。主人公のLinhは、かなり可愛いし、DJ Kimもなかなかレズビアン的セクシーさをうまいこと演じていて素敵。←顔がDJ Juriに似てます。「外国帰りの人気DJ」という設定も、彼女のフェミニンでありながらちょっとワイルドな佇まいも、ストレートの女の子が憧れる感じがよく出てました。滝沢眞規子似の主人公も「お嬢様モード」の時と、「ポールダンサーモード」の時の変身っぷりが見事(しかし、あのポールダンスは、どうなんですかねえ……一ノ瀬文香先生?)。個人的にはポールダンサーメイク&衣装の時のLinhが一番好みですw 

また夫役のTran Hungを演じるPak Narapatはタイ人のようですが、日本でも人気が出そうな甘いマスク!DJ Kimの友人であるゲイカップルも可愛いので、そういう目の保養要素は結構あります。

あと、興味深いのはベトナムのクラブのシーン。どこまで忠実なのかはわからないが、実際のベトナムへ行ってみたくなりました。都会的なところもあるようなんだけど、なんとなく、レトロなんですよねー。かけてる曲は最近の曲なんだけど。

一番グッと来たのは、DJ KimとLinhが二人きりになるために、郊外へとドライブするところ。セリカで海辺へと乗りつけ「自然のあるところへ行くのが好き。自然は二人を裁いたりしないから」というセリフに不覚にも泣きそうになりました。そうなんだよね。同性同士でつきあったりすることを「不自然」だとかなんだかんだ言うのはいつも人間で、自然はいつもそこにあるだけなんだよね。

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…とうるっとしたところで、その後、説明もなしに、イカダの上でのラブシーンへと突入し笑っちゃうんですけどねw ←いや、だからどうやってそのイカダの上に乗ったんだw

あとは、Kinhをストレートに戻そうとDJ Kimを脅迫混じりの泣き落としをする母親に対してKimが放つ言葉。

「彼が何をしようが怖くはない……。でも母親の心の痛みは怖い」

ううっ。刺さる。ゲイとして生きることを「親を悲しませたくないから」という理由で躊躇してしまう人はかなりいると思うのですが、ベトナムもそうなのかな〜と。アメリカのドラマにありがちな「愛は美しい!ワタシはゲイの息子を愛してる!プライド万歳!」的な親子像に違和感を覚える人にとっては、ここらへんの描写はリアルに感じられるかもね。

しかし、全体的に、低予算なレズビアン映画にありがちな「製作者の自己満足っぽさ」は薄く、楽しませよう!というサービス精神がてんこ盛りなので、かなり楽しめました。上で書いたような「伝統的」「前時代」っぽいノリを残しながらも、それだけでは終わらないところ。途中までは(あー、これって、よくあるレズ映画のパターンそのままだなー)という感じでイライラしながら観ていたのですが、「そう来たか!」と最後はニコニコ。

「超おすすめ!絶対観て!」という感じでおすすめ出来るかというと微妙なのですが、非常に「興味深い」映画であることには変わりはないので、アジア映画、レズビアン映画マニアなあなたはチェックしておいて損はなし。今後、日本で映画祭や何かで上映の機会があるようでしたら、ぜひご覧ください!

評価

  • 目の保養度 ★★★★★
  • 笑える度 ★★★★
  • ラブストーリー度 ★★★★

予告編(英語字幕付き)

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