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歴史に残る名演説! 司法長官からトランスジェンダーへの熱いメッセージ

5月9日、アメリカ連邦政府の司法省が、ノースカロライナ州の法律HB2は公民権法*1に反しているとして、同州を訴えました。既に、ノースカロライナ州の同法に対しては、アメリカ自由人権協会(ACLU)などが訴訟を起こしており、さらに、ノースカロライナ州も、司法省から警告を受け、その期限が切れる時に司法省を訴えており、なんというか「泥沼の訴訟合戦」という様相を呈しています。州と連邦政府が訴えあうとか……アメリカすごいな……。

さて、この訴訟について発表した司法長官のロレッタ・リンチ(Loretta Lynch)司法長官の演説がものすごい勢いでシェアされています。ノースカロライナ州出身の彼女の演説は、非常に熱い感動的な内容で、黒人公民権運動におけるキング牧師の演説「I have a dream」や、ジョン・F・ケネディの演説に匹敵するほどの歴史的なものだと言う人もいます。

リンチ司法長官は、アメリカがかつて経験してきた公民権運動の歴史に触れ、これまで人権問題で進歩があると、その後バックラッシュが常に起こってきたこと、公正さ、包摂、そして平等など、アメリカという国が拠り所にする価値観の大切さを訴えています。アメリカにおける人種差別の歴史という背景がわからないと、ピンとこないような言い回しも出てくるのですが、単なる「トイレの話」とか「ビジネス的に損」という話に過小評価するのではなく、HB2を人が生き残るための尊厳と平等の戦いという幅広い歴史の文脈でとらえた素晴らしいスピーチでした。トランスジェンダーが、安心してトイレを使えるということは、単なる排泄場所にとどまった話ではなく、一人の人間として尊重されるか、シスジェンダーと同じ安全と保護が与えられているかという話なんですよね。

スピーチのなかでも、後半ぐっときた部分を紹介します。

この行為(HB2)は、単なるトイレについての問題にとどまりません。これは、私たち市民が持っている尊厳と尊敬が、それらを、私たち皆を守るために、私たちが人として、国として施行する法律と一致しているかという問題です。そして、これは建国の時よりこの国を— ときにつまづきながらも、決して揺らぐことなく-- すべてのアメリカ人への公正さ、包摂、そして、平等という方向へ導いてきた理想についての話です。

私たちの国で、歴史的に進歩があった時に、差別的な反応を見るのは、初めてのことではありません。奴隷解放宣言の後には、ジム・クロウ法*2がありましたし、ブラウン対教育委員会裁判*3の後には広範かつ激しい抵抗がありました。

私たちは、ゲイやレズビアンがいつか結婚する権利が認められるように、という望みを奪うため、同性婚を禁止する州が急増するのを見ました。もちろん、今ではその(同性婚の)権利は、私たちの憲法のなかにしっかりと含まれているものとして確認されています。その歴史的な勝利の瞬間に、さまざまな州で、LGBTコミュニティーをターゲットとした法律が次々と出ているのを見ました。これらのいくつかは見知らぬものへの恐れ、そして、変化に伴う不確定性にともなう不快感を表しているものです。しかし、今は、恐れに基づいて行動する時ではありません。

今こそ、私たちの国の、包摂、多様性、思いやり、そして心の広さという美徳を呼び起こす時です。今私たちがしてはいけないのは--決してしてはいけないことは--私たちの隣人、家族、そしてアメリカ人の仲間たちに対し、彼らが自分でコントロールできないことに基づいて敵対的な態度をとったり、そのことによって彼らが人間であることを否定するようなことです。これこそが、州が人のアイデンティティの問題に立ち入って、「本当はそうじゃないのに、そういうふりをしている」などと言って、存在すらしなかった問題を作り上げ、それを差別や嫌がらせの口実とするような決定を支持できない理由なのです。

さて、素晴らしく、美しく、私の州であるノースカロライナ州の人々に呼びかけさせてください。あなたは、この法律が、傷つきやすい人々を害悪から守るものだと言われてきました。でもそれは事実ではありません。実際には、この法律は、すでに充分苦しんでいる人々を、さらに侮蔑的に扱うものです。この法律は、社会にとって何の利益ももたらさず、ただ、罪のないアメリカ人を傷つけるだけです。

私たちの隣人や友人、そして同僚たちに背を向けるのではなく、歴史から学び、過去に犯した間違いを繰り返すことを避けようではありませんか。州が認可する差別というのは、長い目で見れば、決してよいことではない、という明らかなのに、しばしば忘れられがちな教訓を噛み締めようではありませんか。ノースカロライナ州を含む州が、トイレや水飲み場や公共施設などに、本当は同じ人々を区別し、締め出すような看板をつけていたのは*4、さほど昔の話ではありません。そのような暗黒の日々から、私たちは抜けだしましたが、それは前に進むための絶え間ない戦いと、痛み、そして苦しみがあってのことでした。今度は、違う物語を書こうではありませんか。恐れや誤解に基いて行動するのではなく、包摂、多様性、すべての人への敬意、という、この国を偉大なものにしている価値観に基いて行動しようではありませんか。

また、トランスジェンダーのコミュニティ自体にも直接お伝えしたいことがあります。あなたたちのなかには、何十年もの間自由に生きてきた人もいれば、なかには、自分の生まれた人生をどのようにしたら生きていくことができるのか、まだ迷っている人もいるでしょう。

しかし、今日、あなたがどんなに孤独を感じ、恐れているとしても、どうか知っていてください。司法省とオバマ政権、私たち皆があなたのことを見ており、あなたたちと共に立っていることを。私たちはあなたたちが前進していくのを守るために、できることをすべて行います。どうか、歴史はあなたたちの味方だということを知ってください。この国は、すべての人への平等な権利という約束のうえに築かれました。そして、私たちはいつでもその約束に、毎日、少しずつ、なんとかして近づいてくることができました。それは、簡単なことではありません---しかし、私たちは共に成し遂げるでしょう。

リンチ長官はアフリカ系アメリカ人女性として、初めて司法長官という地位についた人物でもあります。人権を守り、平等を求める戦いの歴史は、彼女にとって大きな意味を持つものなのだと思います。

スピーチの全文は以下から読むことができます。動画と合わせて英語の勉強にもなると思うのでどうぞ!

Attorney General Loretta E. Lynch Delivers Remarks at Press Conference Announcing Complaint Against the State of North Carolina to Stop Discrimination Against Transgender Individuals | OPA | Department of Justice

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P.S.外国人からするとこの演説はアメリカグレート的なノリが鼻につくところもありますが、そこを差し引いても、大事なメッセージが含まれていると思います。そして「愛国心」がこのように多様性や公正さと結びつく形で表現できる国はよいなあーとちょっと思ったりしたのです。

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*1:人種/宗教/性別/皮膚の色に関係なく,公民として米国憲法修正第13/14条等によって与えられている自由/平等等の基本的人権を守るための法律

*2:人種によって一般公共施設の利用を禁止制限した法律

*3:ジム・クロウ法を正当化した「分離すれど平等」という法理を否定し、人種隔離政策を違憲とした判決

*4:いわゆる「ジム・クロウ法」によって多くの州で実施されていた、人種によって一般公共施設の利用を禁止制限した政策のことを指している