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東小雪・増原裕子『同性婚のリアル』感想  -- 「未来像」を描くための地図的な一冊。「家族へのカムアウト」で悩んでいる人にもおすすめ

(078)同性婚のリアル (ポプラ新書)

最近読んだLGBT関連本のレビューを少しずつ書いていきます!まずはこちらから。

内容

「東京ディズニーリゾート初の同性結婚式」で有名なレズビアンカップル増原裕子さんと東小雪さんの対談形式で、同性カップルの「結婚生活」がどんなものか語られます。

お互いのカミングアウトの話から始まり、同性同士でつきあうことや、同棲について、プロポーズについて、結婚式について、そして子どもの持ち方についての具体的方法など、「結婚」にまつわる幅広いトピックについて取り上げています。

二人の別な書籍を読んだことがあるなど、既に知識がある人にとっては重複する内容もあるが、それだけでは終わりません。同性カップルが婚姻できないことによる不利益(社会的困難)の数々が、法的なものと、民間のものに分けて挙げられていたり、渋谷区と世田谷区のパートナーシップ制度の比較、さらに同性婚に関するよくある誤解などがわかりやすく述べられてます。「なんとなく」わかっているつもりだけど混乱しがちなところが整理できるのはうれしいです。

こんな人におすすめ

LGBTについての知識がまったくない人や、「同性同士でつきあうって、具体的にはどんな感じなのか?」を知りたい人におすすめです。

また、今同性の恋人がいるけれども「将来のビジョン」が見えない、というような人にも役に立つでしょう。別に同性とつきあうすべての人が、この二人のように結婚式を挙げたり、公正証書を作って、同性パートナーシップ証明書を取って、子どもを持つ将来を思い描くべきだとは思いません(既に違うやり方で自分たちなりのパートナーシップを築き上げている人もいるよね)が、これまで日本では、そうして生きていってる「先輩同性カップル」の姿を目にすることは難しいことでした。

増原裕子さんも「先輩カップルの結婚式の話を聞いたり、写真を見せてもらったりしたことで、同性同士でも結婚式を挙げられるとイメージすることができていました。やはりロールモデルがいることは重要です。」と語られていますがまさにこれ。ロールモデルの重要性というのは、「結婚式」にとどまらず、「同性をパートナーとして生きていく」人生設計のすべてにおいて言えることだと思います*1

これから思春期を迎え、「自分ってもしかして……?」と感じるLGBTの子どもたちは、今まさに次々と出版されているこのような書籍を手に取り、日本で現実に生きているレズビアンカップルたちをロールモデルとすることができることの意義は大きいと思います*2

特によかったところ

個人的に、一番よかったのは「LGBTと家庭環境の問題」のところで、東小雪さんが自身の体験をもとに語られている内容です。特に、「家族へのカミングアウトで悩む人のほとんどが、もともと家族の問題を抱えていたのではないか」というところには、はっとさせられました。最近は「毒親」を始めとするさまざまな機能不全家庭のあり方が話題ですが、カムアウトの難しさは、自分がLGBTであること「だけ」に原因があるわけではない、という視点は大事です。

気になったところ

残念だったところは、「ゲイカップルとの対談」の一部。男性同性愛者との対比というのは面白かったのだけど、ところどころ「レズビアンはこう〜」「ゲイはこう〜」というあるあるネタのテンプレを枕として話を引き出そうとしているために、レズビアンやゲイを型にはめてしまっているような印象を受けました。

特にひっかかったのが、オープンリレーションシップについて。「レズビアンでは聞いたことない」とか「知り合いに一人もいないし、ほとんど聞かない」「女性でオープンリレーションシップは聞いたことがない」っていうのはその人が見てきた世界の限界を表しているにすぎないと思うのだけど、あたかも「レズビアンにはそういうの、いないんだな」と読めてしまうところが、残念でした。

オープンリレーションシップを実践するようなポリアモリーのコミュニティは、ゲイコミュニティとはまたちょっと別なところに存在し、そのなかで「同性同士の関係も存在する」というような感じだと思います。だからゲイコミュニティのなかで、「オープンリレーションシップのレズビアン」を探しても、なかなか見つからないのは事実でしょう。しかしそれでも「いない」わけではありません。

もちろんゲイとレズビアンのつきあい方に「傾向の違い」みたいのがあるのは事実だし、それが内輪向けのジョークになったりはする(「Uホール」とか「スポイト」とかねw)。しかし、究極的にはやはり「人それぞれ」。特に、こういう啓発的な性格を持つ本なのであれば、性的マイノリティとしてのひとつのあり方でもある(とわたしは考えてます)ポリアモリーや、その一つの実践であるオープンリレーションシップについては、もう少し丁寧に扱ってほしかったです。こういう感じでちょっと触れるだけなら、なくてもよかったかも……?

yuichikawa.hatenablog.com

*1:わたし自身、日本に住んでいた時は、長いつきあいを成功させている同性カップルと知り合うことは出来なかったし、当時は裕子さんと小雪さん、さらにはまきむぅさんとモリガさんのように顔出しをしてメディアに出ているレズビアンカップルもいなかった。カムアウトした有名人の本やレズビアンを取り上げた書籍はあったけれど……。『Lの世界』などの海外ドラマや、エレン・デジェネレスなどの海外セレブくらいしかロールモデルがなかったのです。(今思えばだから「アメリカに行こう」と思ったのもあるかも?)

*2:まあ他にも「お一人さま」のロールモデルや、「老後の生き方」のロールモデルなど、まだまだいろいろな生き方のクィアを見たい!知りたい!とは思うけどね。一度にすべては無理だし、一人がすべてを担うのも無理。少しずついろいろなロールモデルが増えていくとよいな。