今冬、新宿シネマカリテほか全国にて映画『ストーンウォール』公開です!
— 映画「ストーンウォール」 (@stonewall2016jp) August 26, 2016
予告:https://t.co/IuwuRTt2Mh pic.twitter.com/8nHvhaxCTk
エミリッヒ監督による映画『ストーンウォール』日本公開が決定しました。
予告編はこちら。
予告編、いきなり「60年代に実在したゲイバー」って出てくるけど、今も立派に存在しますからね!
雑だなぁ。
プレスはこんな感じででています。
全体的に「史実に基づく感動&ロマンスもの」という感じのパッケージに仕上がってます。
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ちなみにオリジナルのビジュアルはこれです。いろいろノリが違いすぎる。
フィクションの世界ならいいのだけど、「史実に基づく」とうたうのなら、ロマンティック&感動ものとだけ消費するのでなく、それなりに歴史に敬意を持ってほしいです。この問題は、今もまだ続いている話なのだしね。
でも、こういうパッケージで、商業的に公開される以上、これを見て素直に感動しちゃう人もいるんだろうなー、と思うので改めて書いておきます。
『ストーンウォール』は、LGBT当事者から大反発を浴びた映画
わたしも、一年前話題になった時に書きましたが、この映画は、実際にストーンウォールが起こった本国アメリカでは大変なバッシングを受けました。詳しくは以下の記事を読んでみてください。
いや、本国でここまで不評なのに、まさか日本で公開するとは、驚きました。
といっても、公開される以上、この映画を観て感動する人は出てくるでしょう。 そういう人の感じ方を否定しようとは思いません。
しかし、ストーンウォールを観て「よかった」と思った人は、「ただ感動した」で終わらせないで、実際にストーンウォールで何が起こったのか?反乱の引き金を引いたのはだれだったのか?という歴史的事実について学んで欲しい、と心から思います。
また、この映画は史実を無視しているというだけでなく、その無視の仕方には「トランスをいなかったものにする」というパターン(トランス消去)、さらに、「なんでも白人がやったことにする」というパターン(ホワイトウォッシング)に当てはまっております。
さらに、ここでのホワイトウォッシングは、単なる「本当は有色人種だったのに、白人にしてしまう」ということを言ってるわけでなく、「マイノリティーを救う白人男性」という「白人の救世主(white savior)」のパターンにはまっており、この映画『ストーンウォール』以外にもよくある問題だということも知って欲しいです。
ストーンウォールだけじゃない!「白人の救世主」問題
「白人の救世主」パターンのレシピは以下の様なものがあります。
- 実話にもとづいているという触れ込み
- 非白人が苦しんでいる状況
- 白人が現れて、苦しんでいる人々を教え導き、非白人のコミュニティを救うという結末
具体的な映画のリストとしては、以下の様な作品が挙げられています。
デンジャラス・マインド 卒業の日まで
ミシェル・ファイファー演じる、元海兵隊の女性教師が荒れた高校に送り込まれます。初めは言うことを聞かないワルガキ達ですが、ミシェル・ファイファー演じる教師の熱意に押され、少しずつ変わっていきます。
12 Years A Slave/それでも夜は明ける
白人だけど奴隷制に反対というヒーローをブラッド・ピットが演じています。ブラッド・プットは自らこの映画を制作し、アカデミー賞を受賞しています。
アバター
地球人が、資源目当てでパンドラという星を襲い、でも、地球人の男は、パンドラの先住民の味方となりヒーローとなって戦う。またついでに先住民の女性と恋におちるという典型的な白人救世主物です。
ジャンゴ 繋がれざる者
黒人奴隷ジャンゴは、白人の賞金稼ぎシュルツに助けられます。シュルツは当時の白人にしては珍しくジャンゴを白人と対等に扱い、周りからは変な目で見られますが、現在の聴衆が、罪悪感を感じすぎることなく、安心して感情移入できる対象になっています。
ダンス・ウィズ・ウルブズ
アバターと似ています。初めは白人側だったケビンコスナーが、徐々にネイティブ・アメリカンと交流を深め、最後にはネイティブ・アメリカンの一員として認められ、白人と戦います。
他にも沢山あります。
これらが、作品としてよくないわけではありません。わたしは実際にここに挙げられている作品で、好きなのが沢山あります。でも、「人種」という視点から批評的な目で見てみると、確かに「うーむ」となるパターンが繰り返されているのがわかります。製作者も、監督も役者も「そんなつもり」はないでしょう。差別的な意図はないのです。でも、こうして大量に作られるエンタメ作品が、わたしたちの世界の見方に否応なく影響を与えてしまっているのです。
「白人の救世主」は、聴衆が求めているから?
「白人の救世主」批判に対しては、「そんなこといっても、白人が主演の方が興行収入がよい」「アジア市場では白人主演の方がウケる」「結局映画業界は、よりよい収益のために、オーディエンスが求めるものを作っているだけ」(=だから映画業界自体が差別的なわけではない)というテンプレ的な言い訳が存在します。
これに対し、台湾系アメリカ人の女優コンスタンス・ウーが、マット・デイモンが主役を演じる映画『万里の長城』(当然というべきか中国を舞台にした歴史物で、2017年の2月に公開が予定されています)をきっかけに、ピシャリと批判をしています。
Can we all at least agree that hero-bias & "but it's really hard to finance" are no longer excuses for racism? TRY pic.twitter.com/mvNet5PrtH
— Constance Wu (@ConstanceWu) July 29, 2016
前半部分を簡単に訳すとこんな感じです。
『万里の長城』について。私たちは、白人男性だけが世界を救えるという人種差別的な伝説を打ち砕かなければいけません。それは事実ではないのです。私たちの英雄はマット・デイモンみたいな顔をしていません。彼らは、マララ・ユスフザイ、ガンディ、マンデラ、そういう外見なのです。いじめっこからあなたを守るために立ち上がったお姉ちゃん。そういう人々が私たちの英雄なのです。人として生きる上で、お金がーとか、中国人の投資家がーというというのはもっともアホらしい言い訳です(有色人種の人々の選択だって、無意識に偏っている可能性があります)。これは個人を責める話ではないということを、覚えていてください。そんなことをしても、アホらしい「でも、ボクはそんなつもりじゃなくて……だってお金が!」っていうマイクロアグレッション的な言い訳をなだめすかすことにつながるだけです。そうではなくて、白人の方が有色人種より優れていて、有色人種は白人の救世主が必要だというような人種差別的な方向性を、何度でも指摘することが必要なのです。
あなたが何度も何度もこういう映画を作り続けるのなら、それはあなたがそう主張してるのと同じことです。あなたはそう言ってるんです。その通りです。そう。あんたがその口で言ってると同じことなんだって。あなたが「そんなつもりじゃなかった」かどうかとは関係なくね。私たちには救世主なんて必要ないんです。私たちは自分の色が気に入ってるし、自分の文化、自分たちならではの強さが好きだし、自分たち自身のストーリーが気に入っているんです(もし私たちがそう思ってないとしたらそう思うべき)。私たちは、何かから救われるためにあなたを必要となんてしてないんです。そして、「いや、そうじゃない。ホントは君たちはボクを必要としてはず」的なことをはっきりと時にはほのめかして言われることに、ホントーに心の底からうんざりしてるんですね。
有名俳優だけが、ヒット映画を作れると考えてますか?そんなの、なんの保証もありません。どうして、もう少し改善しないのですか?もし、白人女優が時々興行収入で失敗しても、許されるのだとしたら、なぜ有色人種がたまには一度くらいチャンスがもらえないのですか?
(以下略)」
コンスタンス・ウーは、アジア系移民の家族を描いたコメディテレビ番組『フレッシュオフザボート』に出演しており、最近ハリウッドで注目されつつあります。アジア系が主役としてアメリカのテレビに登場するのは、マーガレット・チョーの『オールアメリカンガール』以来、実に20年ぶりでした。多様性に気を使っているように見えるアメリカでも、テレビや映画のなかで有色人種はまだまだ現実の人口比以上に「いないもの」となっています。
アジア系移民コメディ『フレッシュオフザボート』が面白い - #あたシモ
『ストーンウォール』は、LGBT解放運動が広まるきっかけとなった歴史的な事件ですが、それを歪んだ形で取り上げたエミリッヒ監督の映画化が激しく批判された背景には、このように、以前から続いているエンタメ業界における「人種」表象の問題があったのです。