デパートでで「履きたいタイプの靴や着たい種類の服には自分のサイズがない」「女性用と男性用といつも分けられることにうんざり」そんな思いをしたことはありませんか?多くのクィアにとって、洋服や「靴」などのファッション業界で今革命が起きています。クィアな当事者たちが、中心となり、ジェンダーニュートラルなファッションを生み出しているのです。
今回は、そんなジェンダーニュートラルムーブメントの中心にいるシューズブランド「ニック・ケイシー(Nik Kacy)」のファウンダー、ニック・ケイシーにインタビューしました。
Text by Yu Ichikawa/Photos Courtesy Of Nik Kacy
(私が仕事を辞めて靴のデザインを始めた時、人々は私のことを頭がおかしいと言いました。私が工場を探すためにヨーロッパ中を旅し、なぜ誰も男女の二分法を超えた靴を作らないのか尋ねた時、人々は、私のような人間のための靴を作るのは儲からないんだと言いました。私がずっと無視され続けた後で、ようやく自分自身の靴レーベルを立ち上げた時、人々は、私が彼らの夢を叶えたと言いました。あなたの夢を叶えることを、チャンスを掴むことを、誰にも邪魔させないでください。あなたが世界のために、そしてあなたの周りの人のためにどんな前向きなインパクトを与えることができるのか、それは誰にもわかりません。ただ夢を見るのではなく……行動を起こしましょう。ニック・ケイシー)
Queer News Junkie(以下QNJ)「自己紹介からお願いします」
ニック・ケイシー(以下NK)「私は香港生まれで、七歳の時、アメリカのニューヨークに引っ越し、約二〇年前にロサンゼルスに引っ越しました。広告代理店で長年働いた後、Googleに転職。プロジェクトマネジャーとして働いた後、ジェンダーニュートラルな靴のブランドNik Kacyを立ち上げました。セクシャリティーは、ジェンダークィア。ジェンダーフルーイッドですね」
QNJ「……ということは、いわゆる『レズビアン』とか『トランスジェンダー』ではないのですね。いわゆる『LGBT』の枠組みとは違うのですか」
NK「長い間、鏡の前に立つ度に、『間違った身体で生まれてきた』という思いを持っていました。なのでいわゆる『トランスジェンダー』という自認もあります。
2013年には、胸の手術も受けました。それから「男」として扱われることもあったのですが、自分は長い間レズビアンコミュニティで生きてきて、そこに愛着もあったので、自分のことを完全に「男」として、レズビアンコミュニティから切り離してしまうことには違和感があったのです。
レッテルに関係なく、自分は自分。でも、人が私のことをそう呼びたいなら、彼、でも彼女でも、どっちでもいいんです。あ、「女の子」と呼ばれることは嫌ですけど(笑)」
QNJ「そういう「ジェンダークィア」とか「フルーイッド」という考え方は興味深いですね」
NK「そうですね。割と最近の考えだと思いますよ。ここ2年くらいで、どっと増えた感じですね」
QNJ「これまでジェンダークィアであることで、どんな影響がありましたか?不利益を受けたことはあると思いますか?」
NK「幸いなことに面と向かって嫌な思いはせずにすみました。でも、多分、見えない不利益はあったかもしれませんね」
起業について
QNJ「なぜ安定した会社を辞めて、起業したいと思ったんですか?なぜ靴だったんでしょう?」
NK「自分は子どもの頃から、靴が好きでした。でも自分の履きたいと思うような靴は存在しませんでした。だから、もし、誰も自分の履きたい靴を作らないのなら、自分が作るしかない!と決めていたんです。
2015年の2月に、キックスターターでのクラウドファンディングを成功させ、今は第二期目のラインとして「ハイヒール」のデザインを進めています。第一期は自分が欲しかった『男っぽい』スタイルのものを作ったのですが、このブランドを本当にジェンダーニュートラルなブランドにしようと思っているので、より幅広い層へと働きかけたいのです」
QNJ「あなた自身が履きたいスタイルを作った第一期目とくらべて、二期目であるハイヒールにはそんなに興味を持っていない、ということはないですか?」
NK「いいえ、「ジェンダーニュートラルな靴」を完璧なものにしたい!という情熱に燃えているので、ハイヒールにも、同じくらい情熱を持っていますよ!」
QNJ「あなたの靴は、ポルトガル製ですね。なぜ、「ポルトガル」だったのですか?」
NK「靴を作ろうと決めた時、イタリアで行われた靴の国際展示会に足を運びました。そこでリサーチした結果、本当によい品質の靴はポルトガル・イタリア・スペイン……これらの国じゃないとダメだとわかったんです。なかでもポルトガルは本当によかったんですね。今提携している工房と出会えたことは本当に幸運でした」
QNJ「あなたがビジネスを始める上で、インスピレーションを受けた存在はなんですか?」
NK「このビジネスは、コミュニティの存在にとても助けられています。特に、一番のインスピレーションとなってくれたのは、同じくロサンゼルスをベースとしてジェンダーニュートラルなスーツを作っている『シャープ(Sharpe)』というスーツブランドです。このブランドを立ち上げたレオン・ウーとはさまざまな点で助け合う相棒でもあり、アドバイスをくれる存在でもあります」
QNJ「ジェンダーニュートラルな靴をつくるというビジネスをしていて、もっとも難しいのはどの点ですか?」
NK「ポルトガルの靴職人たちとコミュニケーションを取ることですね。距離や時差がありますから。
それから靴を作るというのは、例えばシャツを作ったりするのと比べても、とても難しいです。靴職人たちはもう何十年も、世代を超えて靴を作ってきた人たちなので、靴作りに対してそれなりの考えがあります。そこで、ここはこうしろとかこうじゃないとか言うのですが、メンズ/レディースの区別のないジェンダーニュートラルシューズを作る上では、そのような固定観念を解きほぐしていくのがむずかしいです。
でも、この工房に惚れ込んでいるので、生産場所を変えるつもりはありません。自分は完璧主義者なので、発送の前にはポルトガルに再び渡り、すべての靴の出来栄えをこの目でチェックするつもりです。日本にも発送するので、ぜひチェックしてみてください!」
QNJ「ジェンダーニュートラルファッションが、最近、特に注目を浴びていて、ニック・ケイシーもその文脈で取り上げられていますね。なぜジェンダーニュートラルファッションが人気を集めているのでしょう?」
NK「ジェンダーニュートラルファッションがなぜ今受け入れられているのか。その答えに対する正しい答えは持っていません。でも若い人がより柔軟な考え方を持っているから、というのがその理由であればいいなと願っています」
力強く言い切ったニック。ニック・ケイシーの挑戦は今も続いています。